さる2月10日に福岡県吉塚合同庁舎にて、平成14年度GIS整備・普及支援モデル事業
 (実証実験データベース利活用実験)の福岡県地区における最終報告会が行われました。
 当研究会では実証実験には参加することはできませんでしたが、
 この最終報告会へ参加することができましたので、
 国土交通省と福岡県でのGIS整備に関する取り組みをレポートします。

  実証実験とは?

  「GISの全国的な普及を促進するため」に、平成12年から14年度まで3年間を通して、
 国土庁、通商産業省、運輸省、郵政省、建設省、自治省の6省庁にて実施されました。
 この「GISの全国的な普及を促進するため」には、国、地方公共団体、民間(大学・企業)の
 連携のもと、データ整備、データ流通、データ利用の為の技術開発、アプリケーションの開発
 を行い、先進事例を構築しGISの有用性を実証することが効率的だ、ということで、
 モデル地区として岐阜県、静岡県、大阪府、高知県、福岡県、大分県、沖縄県の7県が指定
 され、国、地方公共団体、民間において整備されたデータの流通と利用が行われている環境を
 作りだし、データの流通・相互利用の有用性や課題について把握しようということでした。

 ちなみに福岡県での参加者は下記の通りです。

           実験参加者数
           H12   H13  H14
  団体・法人    9   10    9
  研究者     15    9   17
  合計       24   19   26

  福岡県における実証実験への取り組み

  皆様のご存知の通り福岡県では高速IP-VPN網「ふくおかギガビットハイウェイ」が
 整備されています。このことは、空間データの相互利用をする上で重要な点です。
 福岡県では総合行政ネットワーク(LGWAN)が本年中に供給開始される予定があるため、
 今回の実証実験のまとめとして「全庁的な空間データの共有や相互利用を視野に入れた
 GISアプリケーションの導入を検討することが望ましい」としています。


 九州工業大学 情報工学研究科 硴崎研究室の実験成果展示の風景。
 学生が主体となって3DGISアプリケーションを開発しているそうです。

 データの提供者、利用者から見たデータ整備

 今回のセミナーの中で特に課題としての意見が多かったのがデータ整備についてでした。

 データを提供する側の意見として、データを整備する為には何がしかの資金がかかっている
 わけですから、無償で提供したデータが営利目的に使われるというのは難しいという意見が
 発言がありました。このことについて資料の中では「国が関与する実証実験ではなくなった
 場合に果たしてどれだけのデータが任意的に提供されるかという疑問がある」と記してあり、
 提供されたデータは下記の通りとなっています。

              提供団体数          提供データ数
             H12   H13   H14     H12   H13  H14
  国            5     11    13      111   181   208
  地方公共団体   19    24    27       54    58    79
  民間          5     6     9       10    14    28
  合計          29   41   49      175   253  315

  データの利用者側の意見としては、データ形式の統一が取れていなかったり、
 航空写真を補正する基準点がなく、広範囲なエリアを対象としたシステムを開発するのは
 難しいといった意見などがあり、国が取り組んでいるJSGIやG-XMLの整備が
 重要だと感じました。

  また、実際にデータを手に入れ、システムに流し込むまでどのようなデータがあるのかが
 わからない為、データ整備に時間がかかったなどの報告例もありました。

  実験成果等の発表会

  今回の実証実験においで、一番の目玉(?)と感じたのは、この企画に3年間力を入れて
 きた九州工業大学 情報工学研究科の硴崎賢一教授の研究でしょう。

  硴崎教授は3年間を通して3DGISアプリケーション開発及びそれを利用した建築物の
 管理、3Dハザードマップや地下埋設物の維持管理の研究など、従来の2DGISでは不可能
 だった分野に挑戦されています。

  GISというものが地物を扱う以上2Dの属性だけでは管理できないことも出てくるで
 しょうし、仮に高さなどの3Dの属性データがあり、数字での管理が可能だとしても視覚的には
 ピンと来ませんが、3Dに視覚化しどんな角度からでも見れる状態にすれば理解しやすいと
 いうのは一目瞭然です。

  実際、この機関からベンチャー企業も発足し、活躍していますから、
 この実証実験が終わっても、実験は続けられると思います。


 大学発ベンチャー企業「ピープルメディア」の3DGISアプリケーション。
 福岡市全土を3D化し、景観シミュレーションをしているところです。

  GISの有用性について

  今回のGIS整備・普及支援モデル事業の目的は先にも述べた通りGISの有用性を検証
 することで、これについて最終報告の中でまとめてありました。

  有用性としてあがった項目は

  ○住民サービスの向上              ○システム開発費用の抑制
  ○情報の新たな活用方法の可能性      ○コストの低減と業務の効率化
  ○分析の高度化、多様化            ○空間データ品質の維持・向上

  …の6項目でした。

  データの流通と利用が行われている環境という状態、つまり、国、地方公共団体、民間が
 持っている多くのデータを利用できるわけですから、様々なデータの組み合わせが可能となり、
 いままで実現できなかったGISデータの構築ができたということです。

  地域的効果

  実際に実証実験に民間企業が参加したのは平成14年度からですが、福岡県でGISへの
 関心が強まってきたこと、そして産学官の連携が強まったことが大きな効果ではないかと
 思えます。

  「GISは有用性がある」という結果が出ているわけですから、
 今後福岡県ではGISに向けての整備が一層進んでいくのではないでしょうか?

  感想

  多くの課題を残しつつも、様々な効果をもたらした今回の実証実験は今後のGISにとって
 大きな一歩だったに違いないでしょう。
 GISもまだまだ発展途上の技術です。更なる進化の可能性を残しているようです。
 当研究会としてもその進化の過程に加わり、リードしていくよう努力していきたいと思います。

  資料

  最終報告会(福岡県地区)
  実験成果等に関する参加者の報告
  成果取りまとめ(要旨)
                           著者 株式会社タイセイプラン 瀬野 賢一